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2013年度 第62代会頭 小畑 宏介 所信

公益社団法人日本青年会議所 2013年度会頭所信 小畑 宏介

試練を与え続ける天。震災のあの日から、わが国は再び希望を取り戻せたのだろうか。今、再び勇壮なる日本へ。新しい時代への胎動が始まった。私は覚悟をもってこの国の燈火となる。

 

 

【はじめに】
私の祖父が生涯愛していた言葉がある。それは「享けし命をうべないて」である。「享けし命」は、天から授かった生命。「うべないて」は、ありがたく受けて。二度とない生命をこの世に受けた。快くこれを受け入れ、精一杯、完全燃焼して、生きた甲斐があるよう、充実した人生を送ろうという意味である。授かった命の一日、一瞬を誠実に生きることにより、はじめてその生きる喜びを味わえるのではないだろうか。この祖父の言葉は、私の心に強く刻み込まれている。
1999年、私は青年会議所の一員となった。表裏のない真っ直ぐな気持ちで、常に青年の気概をもって行動する多くの先輩に出会った。憧れる先輩の背中を追いながら、誰かのために我が身も振り返らず行動し、ともに泣き笑いながら過ごしたこれまでの日々は、私に多くのことを教えてくれた。青年会議所は、40歳までという限られた時間の中で毎年、新しい英知を導入し、創始の志を継承しながら創造の精神を掲げ、常に時代の先端で可能性を切り拓いてきた。明日への黎明に向け今日の犠牲を惜しまない、どこかで誰かのために役立っていることをひたすらに信じて走り続ける。それが我々JAYCEEである。
今、我々がそのバトンを受け継いだ。単年度制の文化ゆえ、積み重ねる一年は挑戦のために与えられた一年であり、時には自分の苦手なことを克服しながら、向き合っていくべきものなのである。今日まで、私の中で、そのことは何も変わってはいない。私は、全てのことに真摯に向き合ってきた。青年会議所という舞台で、永遠を駆け抜ける一瞬の我々であることを再確認し、検証を重ねながら次世代にバトンをつなげなくてはならない。歴史と人と出来事。そして未来。全てはつながっている。青年会議所運動は全てにつながっているのである。
震災後、日本人は多くの犠牲と引き換えに絆の大切さに気づいた。

 

「私はいったい何者で、今どこに立っているのか。」

 

今まで私たちは何によって生かされていたのか、たくさんの「つながり」の中に身を置いていることを実は忘れてしまっていたのかもしれない。私たちは一人ではない。守るべき家族、かけがえのない友人としっかりとつながっている。そして、世界の一員として、国のことを想い、地域を大切にして「つながり」に真剣に向き合った時、何をもって生きていくのかを教えてくれるのではないだろうか。未来への希望を胸に新たな日本を創っていくため、覚悟をもってこの時代を生き抜くため、無限なる結びつきの中に自分が形成されていることを知り、そのつながる先、地域や国家、世界に、最良の変化を起こすことを目的に、「つながり」と私は真摯に向き合っていきたい。
それこそが全てに、そして未来につながっていくのだ。

 

 

【日本を輝かせるのは誰なのか】
東日本大震災は単なる災害ではなく、近年迷走を続け、あらゆる意味で存立基盤が脆弱に成り果てていた日本に追い打ちをかけ、わが国の衰亡の危機、国難ともいえる状況に追い込んだ。東日本大震災と原子力発電所事故によって突きつけられた東北と日本の復興、国難の時代にあっても政局に明け暮れ決断できない政治への不信、バブル経済崩壊後から「失われた30年」になる可能性すら感じる経済不安、さらには領土・領海が脅威にさらされる安全保障問題など確かな道筋が見えず、わが国は決して先送りをすることのできない多くの問題を抱えている。そして、国家観をもつことを拒絶し、当事者意識の不全に陥った国民は一人ひとりの心のあり方にまで浸透した「戦後」という時代から抜け出せずにいた。日本は今、閉塞感の中でもがき、漂流している。日本で最後のベビーブーム世代である私たち青年の果たすべき責任は重く、先送りすることができない問題を抱え転機を迎えた今、新しい「震災後」時代が必要なのだ。
日本が近代的な国家と変化した維新の時、はじめて国民となった明治の日本人は今の私たちと同じように転機に直面した。国民となった全ての人は、国と自分を重ね合わせ、日本と運命をともにする危機感にも似た気持ちからか、その雰囲気から滲み出てくる気概、気迫をもっていた。国民国家が成立し、はじめて国家に参加した明治の人々の間には、自分が国家を代表しているのだという高揚感があったのである。若者たちは、自分の努力が日本の進歩を生むと固く信じ「自分が一日休めば、日本が一日遅れる」という気概をもって日々、励んだのである。
今日、国家の存在に気づいていない人々があまりにも多い。この国は、国民のものである。この国を築いてきた先人たちから引き継いだ私たちと未来の世代のものである。日本は今、混乱を極め、時代の転機にある。変わらねばならないのに変えられない日本。未だ希望を見出せないわが国、日本。これまで私たちは数々の困難を乗り越えてきた先人たちの努力の上にあぐらをかき、手遅れという感覚を忘れてしまったのではないだろうか。あるいは、どこか他人事で、誰かがやってくれるのを待ち望んでいたのかもしれない。戦後、再び訪れた日本の転機に、新しい時代を創造し光を与えられるのは誰なのであろうか。
それはJAYCEEしかいない。
戦後の焼け野原から、日本を再建するという志をもって青年が立ち上がった。それが青年会議所の誕生であり出発であった。戦後の混乱期、先行きの見えない時代に、わが国の未来を強く信じることで、自らが暗闇を照らす光となったのである。そして、青年会議所は、その運動の灯をともした時から、「明るい豊かな社会」の実現に向けて、時代がもたらす困難に創始の志をもって挑んできたのである。我々は、次の世代のためにも覚悟をもって日本の新しい希望となり、わが国に新しい時代を創造する責任がある。
私は今、我々が描く未来こそが、日本を輝かせると確信している。

 

 

【この国は誰のものであるのか】
わが国には、国家の針路を決断し超えていかなくてはならない問題がいくつもある。しかしながら、総論賛成各論反対とよくいわれるように、各論で反対している限り総論はいつまでたっても実現することはない。誰しもが問題を解決する趣旨(総論)には同意しているものの、個別具体的な方策(各論)になると反対したり、批判したりする側に立つ人々が大勢を占める。これは国民の当事者意識の欠如に起因するものである。
この国はいったい誰のものであるのか。
それは紛れもなく、国民のものである。
私たちは「震災後」という新しい時代を創り上げるために、停滞することが許されない今、あらためて国家のあるべき姿をしっかりと描き、日本を前進させなくてはならない。国の主人公が私たちだとするならば、国の主人公にふさわしく心から、国を愛し、国家の平和と繁栄の中にこそ自分たちの幸せがあるのだと考え、主人公にふさわしい義務を果たしていくべきなのだ。誰の国でもない、私たちの国なのである。
我々の弛むことなく生む斬新な運動により、国家に未来への希望をもって真摯に向き合う堅牢な国民性を促し、自覚と気概をもつ国民が創る新しい日本を目指そうではないか。

 

 

【日本の未来を切り拓く】
2009年秋の歴史的な政権交代は戦後民主主義の熟成であっても国家の枠組みを変える出来事ではなかった。いつから日本は決められない国になったのか。今、わが国は国家の根幹に関わる重要な問題について、解決への道筋となる明確な国家の意志を示すことができずにいる。この国難ともいえる状況にあっても、決められない政治、政局に明け暮れる政治への不信が続いているのである。
民主主義は国民の努力によって守られる。わが国には、憲法があり、法律があり、そして選挙がある。しかし、それだけでいいのだろうか。それは国民が強い意志をもって積極的に関わってはじめて機能するものなのである。日本国憲法は国民主権を謳い、選挙は民主主義の土台であるというように国会議員は私たちが選択をしている。政治のレベルは国民のレベルである。これまでの私たちは政治に対し傍観者となり、批判だけを繰り返し、自分が国のために何ができるかを問わずにきた。忘れてはならない。国の選択は私たちにしかできないはずだ。社会を変えることは、政治を変えることであり、政治を変えることは、私たちの意識を変えることである。つまり国の転機に直面している今の日本においては、日本国民自身が民主主義の担い手、主権者としての正に適格性が問われているのだ。新しい時代の民主主義を実現するために、その責任を果たさなくてはならないのである。日本JCは、これまで、国民主権の確立を図るために、国政選挙、首長選挙などにおいて、マニフェスト型公開討論会を全国各地で実施するとともに、E-みらせんの運用を推進してきた。引き続き、政策本位の政治選択が国民に浸透する取り組みを進め、政策を国民に理解しやすいかたちで届けるとともに、未来の有権者への選挙教育にも取り組み、国民が選択の責任を果たす意識を高める行動につなげたい。
私たちがこの国の運命は自分にかかっていると意識した時から、気概や信念が生まれる。国民が日本の未来を選択することが国家の意志となるのである。私たちの選択が日本の未来を創るのである。

 

 

【国家のあるべき姿を描く】
日本国憲法が大きな転機を迎えていることは疑う余地がない。そこには制定から一度も改正されることなく60余年の年月を経た憲法が、時代の急激な変化に対応できなくなってきたという事実があるからだ。また、世界を俯瞰するに、現行憲法に定められた範囲内では世界各国への義務と責任を充分に果たせなくなってきたのはいうまでもない。
憲法は国の最高法規であり、その内容によっては国の運命を大きく変えることにつながるものである。しかしながら、大多数の国民は憲法に対して意識が低い。戦後レジームにおいては現行憲法が世界に誇れる平和憲法として神格化され、憲法論議そのものがはばかられてきたのは事実であるが、時代の変化に応じ、自らの憲法について議論することは、主権者たる国民の権利であり、義務なのである。
これまで、日本JCは憲法問題に対し、様々な切り口で継続的に取り組んできた。今一度、日本国憲法と国民の関わりはこのままでいいのか、これまでの憲法論議の当事者は本当に私たち国民だったのかを問いながら、国民への憲法論議への意識喚起を推し進めていきたい。また、2010年5月18日に施行され、2年が経過した今日、国民投票法について注視することが必要であり、国民投票法の置かれている状況と真摯に向き合い施行状況を検証することで、これからの憲法論議を前進させたい。
主権者である私たちが、この国について主体的に考え、立憲主義を発展させる役割を担っていることを自覚しなくてはならない。そして、この大きな転機だからこそ、この国の姿とあり方を決める根幹である憲法に日本と日本人が大切にする価値観を明確に示すべき時であると考え、これからの新しい未来に向けた国民のための憲法について真剣に議論を展開し、自主憲法制定に向けての具体的な行動につなげていきたい。

 

 

【主張できる国民意識の醸成】
6,852の島で構成される日本は陸地の面積(約38万平方キロメートル)で世界第61位であるが、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積(約447万平方キロメートル)では世界第6位の海洋大国である。また、その海域には膨大な資源が存在しており、メタンハイドレートやレアメタルなどの海底資源のほか、豊富な漁業資源は日本の食糧自給率にも大きく影響している。わが国がこの広大で豊かな海を有しているのは北方四島、竹島、沖ノ鳥島、尖閣諸島などの離島が、日本固有の領土として存在するからなのである。しかし、わが国では大切な領土での不当な実効支配の状態が続いており、昨今の近隣諸国のその強硬な姿勢は国家として看過することができない状況にある。また、領海侵犯問題についても予断を許さない深刻な状況にあり、他国の反日民間団体の抗議船が日本の領海内に侵入し、尖閣諸島・魚釣島に主権侵害を目的として不法入国した事件も記憶に新しい。
領土・領海については、隣接地域だけの問題ではなく国家的な問題であり、また、国民の多くが解決の必要性を感じているものの、まだまだ意識は希薄である。日本の主権が脅かされている今、守るべき国益を侵害されないよう、国家の主権者として歴史的経緯や国際法上の観点から正しい知識と強い意識をもって、しっかりと国益を見据えた上で主張できる国民意識の醸成に取り組みたい。さらに、2012年度よりJC現役国会議員による超党派の議員連盟「JC議連」は、地方自治体の首長、議員にもネットワークを拡げている。彼らとともに、この問題について取り組んでいきたい。領土・領海問題の解決へ向けて今まで培った青年会議所のつながりと知識、経験全てを使い行動につなげる時なのである。
2012年5月ロシアに新政権が誕生し、北方領土問題については本格的な領土交渉に加速がつくであろう。また、ロシアだけでなく、世界各国の政治体制が転機を迎える今、領土・領海問題解決への交渉は政府が行う外交課題であるが、問題解決に向けた世論を形成する国民の意識をしっかりと喚起していきたい。私たちの意識が国家の主権と尊厳を守り、わが国を護ることにつながると確信している。

 

 

【視野を広げたエネルギー論議を】
東日本大震災にともなう福島第一原発事故は、世界中でエネルギー論議を活発にさせている。そして、原子力政策に対する考え方は大きく変化し、多くの国が「脱原発」、「縮原発」の方向に向かっている。わが国では2012年、今後のエネルギー・環境戦略を決定するために、2030年の原発依存度を基準に3つの選択肢(①ゼロ%シナリオ、②15%シナリオ、③20~25%シナリオ)を取りまとめ、「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会」を開催し国民的な議論を呼びかけた。しかし、この聴取会はもっぱら原子力発電と電力が焦点となり、エネルギー全体を鑑みての議論が行われず、政策を導く充分な機会には至らなかった。
これからのエネルギー政策を構築する上では原子力発電、火力発電といった従来の発電方法のみにとらわれず、再生可能エネルギーを含め、ありとあらゆる可能性を検討し、安全性、経済性、環境性といった多面的観点からもバランスのとれたエネルギーを選択していかなくてはならない。従って、長期的な視点に立ち総合的に視野を広げてエネルギー論議は進められるべきである。しかし、これまで環境やエネルギーの問題については、政府や巨大な企業に任せておけばよいとして、国民が当事者意識をもってこなかった。私たちの生活を根底から支えるエネルギーについて、引き続きリテラシーを確立する運動を展開し、国民が知識と意識をもって、エネルギーを選択していけるよう取り組みたい。さらに、地域において従来通り大型発電所からの送電も利用しつつ、ソーラーパネルや風力発電を利用するなど企業や家庭が使用するエネルギーの供給源を多様化してエネルギーの効率化を図るスマート・コミュニティにも着目し、エネルギー活用の新しい仕組みづくり、まちづくりの取り組みを推進したい。
これまで原子力をひとつの大きな柱にしてきた日本のエネルギー政策は、大きな転換期を迎えている。エネルギーを考えることは、私たちの生活そのものを考えることである。大きな選択を迫られている今、私たちが当事者意識と次世代の視点をもち、長期に持続できる確かなエネルギー政策をしっかりと考え、未来につなげていきたい。

 

 

【未来への投資】
東日本大震災において、冷静に対応し、秩序正しく反応し、国家として安定した礼儀正しい社会であることを示し、他者への配慮に溢れた行動をとり、互いに助け合った日本人の姿勢には世界から惜しみない称賛が送られた。なぜそのような振る舞いが自然とできるのだろうか。それは、私たちが日本人だからである。元来、教育には伝統の継承という側面があることから、この誇るべき精神性は教育により日本人に受け継がれてきたといえる。わが国の教育をめぐる各種法律や規則などの根拠となるのが、教育基本法である。この教育基本法は2006年に全面的に改正された。その重要な変更点である「道徳」と「伝統」は教育の根幹であり、根幹に立ち返った教育基本法に鑑み、国家全体の事業として日本のかたちを次世代に受け継いでいく必要があるのだ。
戦後教育において、日本人が誇るべき和を重んじる精神や相手を慮る心よりも、個を重んじる思想を植え付けられたがゆえに、日本人の誇るべき道徳心が薄れてしまった。経済的な価値の過大評価が起こり、あるいは、今が楽しければよいといった刹那的な行動や、「公」の意識が希薄になり、自己の利益のみに関心が向き「自分さえ良ければそれでいい」といった利己的な風潮が蔓延している。法によって「道徳」と「伝統」という国家観を身につける機会を得たとしても、価値観が多様化した私たち大人が子どもの手本となり得ていないのでは国民に浸透することはない。子どもは時代を如実に映す鏡である。昔の子どもたちに比べ、現在の子どもには心の成長を支える基盤となる環境を大人が用意することができていない今、我々JCが「徳育」に取り組むことこそが必要不可欠なのである。引き続き、日本JCがこれまで展開してきた青少年育成のための様々なプログラムやLOMが行っている青少年事業を通して、道徳心を育む運動「徳育」を推進するとともに、子ども、そして、その範となる大人にとっても精神的・社会的規範となる「道しるべ」を示していきたい。
明治天皇が、帝国大学設立にあたり、ご視察された折に、修身科がないことを憂い12の徳目の明記された教育勅語を発表された。道徳教育は国家の根幹を担っているのである。広く道徳心を呼びかけた教育勅語さえも否定した戦後日本の教育から60年を経過して、ようやく現代の教育は本来あるべき日本の教育の姿を取り戻しつつある。未来への投資をしない国はやがて衰退するといわれる。この転機にあたり、国家として未来への投資である教育をしっかりと実践することで、未来とのつながりを強固なものにしたい。

 

 

【遥か遠くを見据えるリーダーを】
この国にリーダーと呼ばれる卓越した人材が出現しなくなってからもう何年も経つ。優れたリーダーが現れてこなくなってしまったのは、やはり戦後の日本の教育に起因するのかもしれない。東日本大震災の国難ともいえる状況を目の当たりにして、先頭を切って困難に立ち向かっていくリーダーを切望したのは、被災地の人たちばかりではなかっただろう。歴史を見ても、リーダーの資質、種類というものはそれぞれの時代に求められ誕生している。だからこそ、この転機には、リーダーの登場をただ漫然と待ち望むのではなく、卓越した人材を発掘しリーダーへと育成するのが急務かつ必要不可欠なのである。
日本JCは2012年から「グローバルリーダー育成塾」を開講し、卓越した人材を発掘し、自国を誇れる歴史観と確かな国家観をもち、俯瞰的な想像力をもって弛まなく行動する、国の未来を切り拓く世界で通用するグローバルリーダーを育成している。引き続きしっかりと継承し、経験を活かし進化させ、参加者全てのつながりを強固にして、より多くのグローバルリーダーの育成に取り組んでいきたい。人は遥か遠くを見るリーダーを羨望し、憧憬を抱くものである。坂本龍馬に憧れをもつ多くの人も、薩長同盟という離れ業をやってのけた実績ではなく、自らの将来や日本の未来という遥かかなたを見据えていたその痛快さに惹かれているのではないだろうか。「グローバルリーダー育成塾」により、遥か未来を見据え、行動するリーダーが誕生すると確信している。

 

 

【時計の針をすすめよう】
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、かつてない規模の自然災害であり、後に起こった原発事故は未曾有の事態であった。その大震災から2年が経過しようとしているが、今なお、わが国は国土の5分の1を襲った震災からの復興に苦しんでいる。地道な復旧活動は少しずつ進んでいるものの、被災地には未だ震災がれきが積み上げられその惨状が被災者生活の目前に存在し、原子力発電所周辺住民の困難な状況は解決する目途も立たず、真の復興には未だ遠き道のりであると言わざるを得ない。
この大震災がもたらした最大遡上高40.1Mにも上る鉛色の大津波は、全てを一瞬で消滅させた。そして、家族を失った被災者の多くが、「私の時計はあの日から止まったままだ」と語るように、東日本大震災は多くの人々の時間を止めてしまったのである。私はこの大震災を単純なひとつの災害ではなく、失われた家族や人々とのつながり、生まれ育った故郷の風景、住み暮らす家、学校や会社など、ありふれた日常との「断絶」を一人の被災者に一度に課した悲惨な事故と捉えている。今上天皇から私たち国民に発せられた御言葉にもあるように、何よりも被災地と被災者に心を寄せることこそが、震災からの復興が進む原動力であると思う。そして被災地に多くの希望が生まれるように、時計の針をすすめたいと切に願っている。

 

『時計の針が前にすすむと「時間」になります 後に進むと「思い出」になります』 寺山 修司「思い出の歴史」より

 

私たちは、震災直後から今日まで全国の多くの仲間とともに、復興に向けた支援活動に取り組んできた。震災から一日も早い復興を成し遂げるために、私たちは「決して歩みを止めない」という強い決意をもって、変化する被災地の状況とニーズをしっかりと捉えるとともに、「東日本大震災復興指針」に基づき、今必要とされる支援活動を進めていきたい。
また、震災だけでなく、豪雨による災害も多発しており、これから起こりうる自然災害に備え、地域の防災・減災力を向上する防災教育を推進するとともに、新しい防災の物資備蓄パッケージであるJC-AIDを普及させるなど広域災害で起こりうる被害に迅速に対応できるように取り組んでいきたい。さらに、既存のJCの災害ネットワークを行政や企業や他団体との連携を図れる強固なものに発展させることにも取り組んでいきたい。
未曾有の災害で失われた多くの悲しい犠牲の代償として得た学びは、私たちの「決して忘れない」という強い決意により未来への希望につながると確信している。

 

 

【地域から日本を再生する】
「ソーシャル・ストック」という概念がある。直訳すれば「社会資本」だが、従来のハードな資産のみならず、地域の歴史や文化、伝統、習俗や景観など、その地域社会に永年に亘って大切にされてきたソフト資産を含む概念として使われている。まちおこしや村おこしは、この「ソーシャル・ストック」を地域の人々が発見し、まちづくりのコンセプトのベースとして共有することからはじまるのである。
それぞれ人に違いがあるように、地域にも地域の数だけ違う歴史や文化や特徴がある。また、そこには地域特有の問題があり、その地域を輝かせるためには、それぞれの地域が再生を目指すという同じ目的をもつとしても、その手段は画一的なものではなく、そこにしかない解決方法を見出して、取り組むべきなのである。また、全国を見渡しても市民を導き、問題解決に向けて積極的に取り組むはずの地域のリーダーは少なく、切望する声が高まっている。自らが住まう地域であるからこそ情熱と気概をもった人材をこれまで培ってきた日本JCのプログラムを積極的に活用することにより、地域のリーダーへと育てていかなければならないのだ。
そして、地域にはそれぞれ独自の歴史と文化が溢れており、そこには現代まで継承し続けてきた人々がいる。また近年、陶磁器、木工品、織物など地域の伝統技術は、その人々の手により、最先端のデザインや技術だけでなく、その背景に纏わる興味深い物語などが融合し、より価値あるものとして発信されている。そこには地域を想う人と人との信頼により結ばれたつながりが必ずあるのである。日本JCはまだ地域に眠っているであろう食、伝統工芸、歴史資産や生活文化など、さらにはその地域の誇りとなっている芸術にも着目し、有形無形に関わらず、地域資源を磨きあげ「地域のたから」を創造するという取り組みを支えていきたい。その地域の人々でしか加えられない物語を活かして、磨きあげる技術ともいうべき想像力をもっている人材も育成することで、人と人、人と地域、地域と地域をつなげていきたい。
そこにしかないものだから、その地域の「ソーシャル・ストック」があるからこそ活かされる地域資源がまだまだ眠っている。磨きあげられた「地域のたから」が新たに地域の代名詞として広まることが地域の再生につながると確信している。
また、日本経済を再生させる原動力が地域にあることはいうまでもない。そして、地域においては自立した持続的、安定的な発展に寄与する輝く企業の存在が必要なのである。しかしながら、長期に亘るデフレに加え、今後さらに進行する少子高齢化、人口減少は、確実に国内市場を縮小させる。また、労働力の減少による生産性の低下を加速させ、国内を主たる市場とする地域に根ざした多くの企業は、苦境に立たされる可能性がある。青年会議所メンバーのほとんどが経済人であることから鑑みても、青年会議所運動の力の源泉である地域企業の未来像を今、しっかりと描くことは我々にとっての責務である。
少子高齢化社会における、わが国の雇用と経済活動の根幹を支える地域企業の成長に向けたモデルづくりに取り組むことで、疲弊する地域の未来を切り拓くとともに日本経済の再生につながる道筋を確かなものにしたい。

 

 

【我々は日本そのものである】
2012年、日本JCはJCI ASPAC香港大会をはじめとする4つのJCIエリア会議において、JCIオペレーションホープを通して世界中の仲間からいただいた東日本大震災に対する支援に感謝を伝える機会があった。「ありがとう」の気持ちを伝えた我々に、各国メンバーから涙ながらにスタンディングオベーションが送られた。私は世界とのつながりを感じるとともに、我々が、日本国の代表として受け止められていることを強く感じた瞬間であった。現在、国際青年会議所(JCI)は120を超える国と地域によって構成されており、我々が日本そのものであるとの意識をもって海外との接点をもつことは、世界の中の日本を身近に感じることができる機会であり、国際社会におけるわが国の役割を考える貴重な機会になると思う。国益を守る外交は政府が行うものである。我々は国家青年会議所(NOM)として民間外交を基軸とした世界平和に寄与する取り組みを行うことで、国際社会の一員として、また、JCIのリーディングNOMとしての役割と責任を果たすべきなのである。
日本JCでは、JCIが推進する国連ミレニアム開発目標(UN MDGS)を切り口とした運動をすでに進めている。引き続き2015年の達成に向けて、UN MDGSの意義と目的を子どもから大人まで広い世代に拡げるとともに、マラリア撲滅運動の一環であるJCI NOTHING BUT NETSキャンペーンを全国の各地域で展開していきたい。国内における、この草の根レベルの取り組みを、国際社会への貢献にしっかりと結びつけたいと思う。
2012年、これまで取り組んできた「OMOIYARI」プログラムがJCI公認プログラム(JCI公式コース)として承認された。日本の美徳の象徴が、より力強く世界に向けて発信されることは世界平和の実現に向けての前進を表している。日本は世界になくてはならない国であるという誇りをもって、自ら一人ひとりが外交の担い手であることを自覚し、積極的な民間外交や互いの文化を尊重し合う相互理解により恒久的な世界平和の実現へと確かな歩みを続けていこう。

 

 

【世界の中の日本】
近年、国際社会では中国の成長について頻繁に報道されているが、私たち日本の成長はもっと凄まじかった。年率30%近い成長が毎年東京オリンピックの開催まで続き、日本の国内総生産(GDP)はアメリカに次ぐ世界第2位となった。しかし、現在は中国に追い抜かれGDPは第3位となり、未だ交渉の低迷する環太平洋パートナーシップ(TPP)協定をはじめとした自由貿易の未来は迷走している。過去40年間というもの日本の企業は国内市場を制することで世界において地位を築いてきたが、日本経済全体が縮小傾向にある今、国内だけでなく世界の市場で立ち位置を確保しなければならない状況にある。民間外交の担い手として2010年より携わってきた、世界のアントレプレナーたちが集う、G20YEAにJCが日本の青年団体をまとめ、積極的に参画していくべきと考える。
また、いうまでもなく世界の経済の中心は大きく西から東へと、つまりアジアへと動き始めている。アジアにおける各国の勢力均衡が変化する中、日本がアジア、特に東アジアの近隣諸国とどう向き合うかは、わが国の繁栄にとって肝要な点となる。とりわけ中国との関係は、アジア地域の安定のために重要なものである。中国とはお互いがもつ歴史認識の相違など、解決に向けて取り組まなくてはならない問題が多く存在するものの、日本と中国の相互発展につながる民間外交を考えるに、相互依存のもと、地域間の関係を強化することは必要不可欠であると考える。1986年からのカウンターパートである中華全国青年聯合会と2009年に合意した「日中中期ビジョン5ヵ年計画」に基づき、お互いの地域間の交流をしっかりと図り、継続して相互理解と友好交流による民間外交を行うとともに、未来を見据えた効果的なパートナーシップのあり方を考えたい。また、近隣のアジア諸国と相互発展をしていくために、引き続き、相互理解の機会を創出することで、アジアから世界の平和に貢献していきたい。
自らの立場を主張しつつ、国際社会に対して主導的役割を果たしていく日本であるために、民間外交の一翼を担う国家青年会議所として、未来における世界の中の日本の確かな立ち位置をしっかりと描いていきたい。

 

 

【日本の青年会議所運動】
青年会議所は紛れもなく地域のために存在する。それは、それぞれの地域社会がもっている問題を青年の英知と勇気と情熱をもって解決することにこそ、青年会議所の価値が生まれるからである。我々は「明るい豊かな社会」という理想を掲げ、未来づくりへの信念を決して曲げることなく、青臭くも侃々諤々と議論を繰り拡げ、責任世代の希望と行動を自己開発しながら実現させるのが青年会議所運動であり、青年団体は数多くあるが、その真っ直ぐさゆえ、唯一無二の存在なのである。全国の698LOMには間違いなく「学び舎」としての魅力があり、地域を想い、学び得たことを行動で示し地域社会へ還元し続けてきたのである。だからこそ、自信をもって市民・行政・企業・他団体とも連携し、我々の描く「明るい豊かな社会」である「生き抜く力」と「生かされていることへの感謝」が漲る社会に向かって、運動を展開しようではないか。
現在、多くのLOMが会員減少に悩み、組織の運営に苦慮している。私はLOM会員の増強に取り組むにあたり、今一度私たち自らがどう成長してきたのか、どのように地域と向き合ってきたのか、そして自分たちの運動で地域がどう変化したのかを、これから出会うであろう仲間に自らの経験として熱く語り続けることが必要であると思う。なぜなら、その語り手はJAYCEEそのものであり、地域を想う人間そのものであり、自分に感動を与えた人や出来事で漲るその声は必ず相手の心に響くものとなるはずだからだ。まちづくりには、多くの人々の共感を得なくてはならない。つまり、それは「一人のまちづくり」から「二人のまちづくり」、「三人のまちづくり」へと変えることであり、青年会議所が意識変革の団体として、基本運動であるLOM会員増強に真摯に取り組む理由なのだ。また、自分を開発し自分を高めていく喜びも青年会議所では経験することができる。そのためには、心の琴線に触れ、自分を変えてくれる環境に身を置くことが必要である。ぜひ理事長のみなさんには、多くのメンバーを日本JC、地区協議会、ブロック協議会、またJCIへと出向させていただきたい。さらに、国内外で開催される諸大会・事業へも積極的に参加させていただきたい。
この大きな転機を迎えた今だからこそ、全国各地にいるJAYCEE一人ひとりがそれぞれの地域で今まで以上に意欲的に活動できるように、意識変革を誘発するインセンティブを互いに提示し、全国698LOM、40,000名の同じ志をもったメンバーとともに、青年の英知と勇気と情熱をもって、地域をそして日本を照らす青年会議所運動を進めよう。

 

 

【地域を輝かせる組織であるために】
日本JCは、全国698の会員会議所によって構成されており、いうまでもなくその会員会議所のために存在している。従って、本会、地区協議会、ブロック協議会は、各地の青年会議所運動が価値をもって展開され、地域にとってなくてはならない信頼される青年の団体であるために、全てにおいて会員会議所の発展につながる運営をしなくてはならない。そして、その運営にあたっては地域によって異なる悩みを抱える会員会議所に、よりきめ細やかなサービスを提供するために、あらためてガバナンスを強化し、一貫性のある情報の受発信をするとともに、本会と地区協議会、ブロック協議会がそれぞれ有機的に結びつく組織連携が必要である。
東日本大震災を鑑みても広域的で各都道府県を横断的に連携することが求められている今、日本JCの組織である地区協議会は、10地区それぞれの総合調整機関であり、地区協議会会長は、日本JCの議決権を有する常任理事でもあることから、会員会議所と本会を双方向でつなげる担いがある。日本JCが展開する運動、事業の多くの情報を各地へ届けてもらうとともに、地域から日本を輝かせる観点に立ち、ともに運動を進めていきたい。そして、47ブロック協議会においては、各々の伝統と特色を持ち味としながらも会員会議所に最も身近で頼られる存在であり、有事の際の連携調整はもちろんのこと会員会議所の抱える問題や課題がそれぞれ違うことを鑑みるに、ブロック協議会のもつ可能性は幅広い。会員会議所にとって、2013年11月に移行期間が期限を迎える公益法人制度改革など、最も必要なサービスを提供していきたい。さらに本会は、公益社団法人へ生まれ変わり4年目を迎え、また、団塊ジュニア世代卒業後の今後の著しいメンバー数の減少も鑑み、あらためて組織運営を点検し公益性と組織の透明性をもち続けるとともに、会員会議所を地域において輝かせ続ける組織の進化に取り組みたい。そして、地域を照らす運動と組織を輝かせるために会員会議所を支えていくとともに、未だ青年会議所運動が存在しない地域にも向き合い、その地域の発展に不可欠なLOMの拡大にも取り組んでいきたい。
日本JCが誰のための組織であるのか、その我々の責務を日本JCのこれまでの弛まぬ前進を止めることなく、会員会議所の負託と信頼にしっかりと応えていきたい。

 

 

【決断できる日本を創ろう】
東日本大震災のあの日から、日本は新しい時代へのスタートを切った。わが国は再び希望を取り戻せたのだろうか。未曾有の惨事は予測できないものであったが、国家としての混迷、停滞は容易に想像できたかもしれない。今の日本は決断をせずに、問題解決を先送りすることが繰り返されている。
私たちは、日常生活のささいなことや人生において、どんなに迷ったとしても進む道を選ばなくてはならず、多くの判断のもと、決断を重ねながら未来に向かって進んでいる。世界を見ても変化が早く、その変化に加速がつく時代。一瞬の判断が取り返しのつかない時代となった。新しい変化は生まれては消え、掴みかけた問題解決への道筋や、ヒントは瞬く間に過去のものとなる。私たちには、これまで以上に変化を的確に捉える能力が求められている。そして、未来は私たち主権者の決断に基づく行動が創るのだという気概が必要なのである。私たちの決断の先に日本の未来があるのだ。我々には、身近な社会を変え、国を変えていく無限の可能性があることを私は信じて疑わない。いつの時代も斬新な創意に満ちた青年の力こそがその原動力になったことは歴史に明らかなことである。今、日本は世界のどの国も経験したことのない、手引きのない問題に取り組んでいる。その意味において、私たち青年という責任世代が未来への希望をもって問題解決に向かって決断を積み重ねていくことは、私たちがお手本を創ることになり、日本が世界をリードする国に導ける可能性がある。何も解決策がないのであれば、自分たちで創ればよいのだし、もともと私たちは、そうやって幾多の困難に取り組んできたのである。乗り越えていく日本の経験を世界に発信することで、国際社会が抱える様々な問題の解決に貢献することができるのではないだろうか。
さぁ旅立とう。今日とは違う明日を始めるために。今日を未来へとつなげるために。理想とする新しい日本に向かって。決断できる日本を創ろうではないか。

 

 

【結び 勇壮なる日本へ】
我々は振り返ることを許されていないわけではない。しかし、振り返ることだけでは未来を創ることはできない。ただ、未来をみつめる強い信念こそが、現状を突破する術であることを知っているはずだ。

 

『人は現状を見て、なぜこうなのかを問う。私はまだ実現していないことを夢に見て、なぜできないかを問う。』 ロバート・ケネディ

 

未来を夢見るには、前向きな姿勢とそれを描く力が必要である。夢を叶えるには、ぶれることのない強い信念で新しい変化を生み出し続けることが必要である。
その変化の先端にいるのが我々JAYCEEなのだ。絶えることのない前進を続けよう。悲しみも喜びも引き連れて、たとえ壁が高くとも、前が暗くとも。消えない希望と終わらない夢を乗せて、妥協することなく未来へ前進し続けるのだ。新しい時代へ日本を導いていこう。
改めて、ここに宣言する。我々は、未来を創る。もう一度真っ白なキャンバスに過去からつながる未来への希望を一本一本書き足していこう。表現しよう。その一本一本は、全てにつながっているのだ。

 

勇壮なる日本へ。気概と覚悟をもって、我々は人々の燈火となる。

 

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