過去の受賞者のその後 合同会社南部どき 代表社員 根市大樹さん

2019年に開催された第3回価値デザインコンテストで、JCI会頭賞を受賞された 合同会社南部どき 代表社員の根市大樹さんにお話を伺いました!

 

合同会社南部どき

青森県三戸郡南部町大向泉山道9−54
代表社員 根市 大樹
https://nanbudoki.com/

受賞された事業の内容と、その後の状況について教えてください

 当時は青森県南部町の農業の課題であった果樹の剪定枝を再利用して、燻製用のチップにして商品を開発するというアイデアで事業を展開していました。特に高齢農家は、この剪定枝の処分に困っており、廃棄に相当な負担がかかるので農業をやめてしまい、耕作放棄地が増える原因でもありました。弊社では、地域の障がい者と協力して剪定枝を回収、チップ化しており、農家からは無償で剪定枝を回収するかわりにその分のコストを商品価格に上乗せして、ECサイトのほか、小売り、さらには全国各地への卸販売をしています。
2019年当初回収していた農家は6件ほどでしたが、今では12件ほどの農家さんから剪定枝を回収しています。まだまだ回収が必要な農家も多く、燻製商品だけではチップが余ってしまうので、今後は別角度から剪定枝を再利用する必要があるかなと考えています。

燻製はサクラの樹などを利用するのはよく聞きますが、他の樹で代用できることはもとからご存じだったんですか?

 もともと留学先で、ワイナリーで働いていて、燻製のピザなど色々作っていました。そこでは何でも樹は燻製に使っていました。針葉樹はヤニがでるが、広葉樹はなんでもOK、リンゴやマンダリンの樹などを利用していました。使う樹によって少し香りも違って、面白いなとは思っていました。そういえば、と頭で繋がってスタートするきっかけになりました。

「南部どき」という名前の由来は?

 これからローカルの時代が来ると思っています。タイムのとき、そしてドキドキ、ワクワクを出していこうという趣旨で名づけました。経営理念としては、「1年後の自分。10年後の家族。100年後のふるさとのために、さぁいまこそ南部どき。」というのが、チームのキャッチフレーズです。

実際に事業をスタートされてから、収益化していますか?

 全体の事業からするとまだ割合は低いですが、収益の柱になりつつあります。当事業で4人くらい雇用も生まれています。季節雇用でいくと8人います。障がい者のみなさんですね。丁度2,3,4月の冬場の3か月間は、障がい者のみなさんは仕事がない期間で、5月からは、畑作業や苗植えなどが入ってきます。この期間に障がい者の方の雇用を生み出すことができています。
 2016年からスタートして、冬場に、皆で計画を立てながら売るものを作って、春から商品として売りだす、この一連の形ができてきたのが、2017年頃。コロナ前の2020年頃が最大の収益でした。バランスが取れるようになるまでは5年くらいはかかりました。ただ、その前に、農家が辞めないで続けられていることに、お金では測れない価値があって、そこは成果として大事にしています。

事業から、障がい者さんの雇用や農家の継続など色々繋がっているように思いますが、何か想定してなかった影響もあったのでしょうか?

 想定していなかったプラスの影響は、社会的な注目度が高まったことです。新聞やテレビでもとりあげてもらって、行政や役場から、「チップパーク」という公園にチップでウッドデッキを作って、歩く場所のクッションとして使えないかという提案もありました。新しいアイデアが外から入ってくるようになったことは、プラスの影響でした。
 反対に、マイナスの面というか、苦労したところは、前例のないことをしているので、チーム内の評価がばらばらになってしまうことです。個人的に農家が継続できてよかったと思う反面、チームメンバーからはもっと会社に還元して、給与をあげて欲しいという要望もあったと思います。コロナになって、逆によかったことは、チーム内で、事業を行う上で何が価値なのか、チームとして何を創っていきたいのか、といったことについて話し合えたことです。チーム内から、社会的価値が見えにくいので可視化して欲しいといった声がありました。そこで、農家とチーム内で飲み会を実施しました。チームメンバーが直接農家の方とコミュニケーションをとれるにようになったのは大きかったです。直接的に農家さんから「助かったよ」と言ってもらえたら社会的価値を感じられますよね。農家さんとの繋がりが、チームのみんなの評価になったことが自信になりました。現在、卒業以外は離職者ゼロの状況で、とても誇らしく思っています。

事業の目的が明確になっていますよね。対価としてお金をもらう面も勿論ありますが、理念に共感して皆さん働かれているんじゃないかと思います。

 スタートアップはそこが強い点だと思います。最初は理念に共感している人が集まる。ただ、進めていく中で、やっていることが見えづらい点はあると思います。目隠しして100メートルを走っている感じ。皆が声を出して、今ここですと横並びでできる仕組みが必要だと思います。

剪定枝や、農家の継続については、全国共通の課題と思いますが、ロールモデルにならないでしょうか。

 北国では、剪定枝の回収や廃棄は、共通の課題だと思います。雪国で歩きにくい中、高齢で負担が大きい場所では、この取り組みはモデルに成り得ると思います。ただ、難しいのは、回収した剪定枝で燻製チップを作っても、全て売れるとは限らないところです。

価値デザインコンテストに出場されていかがでしたか、周りの反響などはありましたか?

 価値デザインコンテストは、私たちの事業の定点観測でもありました。こうした社会課題解決型のビジネスは、定量的な評価が見出しづらく、ともすればかかわっている人たちのモチベーションが下がってしまう原因にもなりがちです。自分一人でやっているならいいですが、自身の価値基準がチームと一致するとは限らない。私たちもちょうどそんな時期で、自分たちの事業が社会にどのようなインパクトを与え、今後どのくらいの利益をもたらすかを計りづらいものでしたが、価値デザインコンテストで客観的な評価を得られたことで、社員一同、改めて事業の重要性を認識することができました。
 受賞したことで、新聞にも載せてもらって、社会的な注目度が高くなりました。そういった広がりをきっかけに、行政側から、チップパークといったアイデアも頂けるようにもなりました。

今後の会社の方向性、目標について教えてください

受賞その後にも関係する話しですが、多くの農家さんから剪定枝を集めることで剪定枝だけが増えていっては意味がありません。不要だった剪定枝を必要とされる資源にしていかなければならないので、燻製用のチップの他に活用方法を見出していきたいと考えています。たとえば、公園の養生にチップを使ってぬかるみ対策をしたり、アスファルトではなく木質のチップで道をつくったりと自然や環境に配慮した使い道があるかなと考えています。すでに事例もありますので、行政と連携してこうした可能性も探れたらなと考えています。
また、剪定枝の事業としては、農家さんとチームのコミュニケーションはしっかり続けたいです。そこでいろんなアイデアが双方からできているので、自然と化学反応が生まれることを待っています。もう一つ意図的に作りたいことは、若い農家さんに農業の技術や、稼ぎ方のノウハウを伝えていきたいと思っています。行政や産学官も巻き込んだり、課題はありますが、ご年配の農家に人が入ったり、都市部から農業をやりたいと言う人が(例えば岡山や大阪から)来るような流れも作れたらいいなと思っています。
本筋とはそれますが、現在は農業まわりだけでなく、子どもたちの教育や暮らしに関する課題解決にも力を入れています。特に体験格差の問題を解決するために、寺子屋を開いて地域の子どもたちと地域の大人たちがともに活動できる場を開いています。

最後に、2023価値デザインコンテスト出場者へメッセージを頂けますか

 社会課題の解決は今後の日本の経済、もしくは社会生活に必要不可欠な要素です。ただ、売り上げや利益を追求しなければならないビジネスの世界では定量的な評価が得られないこともあるかと思います。そこには、葛藤や不安もつきまとうかもしれません。コンテストに出場することは、もちろん受賞を目指すのでしょうが、何よりどのように外部の人たちに想いや魅力を伝えるかを考えることで、自分の事業の見直しや定点観測にもなります。きっと、事業をはじめたときのワクワクやドキドキを取り戻すきっかけにもなりますし、チームでスタート地点とゴールを確認する良いチームビルディングの場にもなると思います。今一度、自分たちの事業に対する価値を再確認する手段にもなりますので、受賞を目指すだけでなく、今一度事業に向き合うきっかけにもして欲しいと思います。

(取材:社会課題解決推進委員会 委員長 髙畠祐介、副委員長 川上智之)